脳科学(大脳生理学)の研究や幼児教育の研究において、「人間の脳は6歳までに90%完成する」ということが、明らかになりました。
ユニセフが毎年発行する基幹報告書「世界子供白書」には、
「子ども時代の初期では、親や家族やその他の成人との関係や対話が子どもの脳の発達に影響し、十分な栄養や健康や綺麗な水などの要因と同じくらい影響力を持つ。
この期間に子どもがどのように発達するかが後の学校での学業の成否を決め、青年期や成人期の性格を左右する。
出典:世界子供白書2001」
という研究結果も記されています。
また、ジャクソンとスキャモンの発育曲線やベイレイの知能発育曲線においても、同様の結果が示されています。
つまり、6歳までの親や教育者との関係、6歳までの経験が、その子の知能も人格もほぼ決める、ということが分かったのです。
せかいくでも、これまで幼稚園教諭・インターナショナルスクール保育士として、幼児教育現場に12年携わってきました。
その中で、いかに乳幼児期の大人の関わりが子どもの人間形成に大きく影響するか、ということは実感してきたため、この研究結果には大いに納得するところです。
例えば、子どもは大人の心とシンクロする、ということがあります。
大人がどんなに顔や態度にイライラしている様子を見せなくとも、子どもにはそのイライラが伝わってしまうのです。
こちらがイライラしたり、焦ったりしている時には、必ずといっていいほどクラス内でトラブルが2、3件起きたものでした。
これは大人のイライラがシンクロし、子ども自身もイライラしたり、“怒ってる?どうしよう”と不安になったりした証拠。
また逆に、親・大人が笑うと子どもは必ず笑います。
たとえ転んで泣きそうな時でも、「Nice Dive!」と拍手喝采を送ると、子どもは誇らしそうな笑顔になるのです。(これは実際にインターナショナルスクールで行っていたことです。)
これは、親・大人の安心や楽しい気持ちが子どもにも伝わって、安心感を与えたからに他なりません。
「まだ小さいから大人が何を言っても何をしても、分からないだろう」
という人に時々出会いますが、それは大きな間違いです。
子どもは大人が思っている以上にすべてを分かっているものですし、我々大人を見ています。
そして、我々大人の心にシンクロし、振る舞いを真似しながら脳を発達させていくのです。
更に幼児教育の現場を見ていると、同じ月齢、同じ年齢の子でも、家庭でどのように過ごしているか、親にどんなことを言われているか、で発達がまったく違うことが分かります。
すなわち、親・大人がどんな心構え、価値観を持つか、そして、どんな関わり方をするか、が子どもの発達に大きく影響するということです。
もう1つ、有名な研究に『幼児教育の経済学』というものがあります。
これは、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン氏の研究で、高校や大学など、子どもの年齢が上がるにつれ教育に対する投資をするよりも、幼児期に投資した方が一番費用対効果がある、という研究結果が出たというものです。
(参照:「「幼児期への投資」こそ、子どもの将来を左右する。」)
ここでいう教育に対する投資とは、単純に幼稚園や学校、習い事などの月謝だけではなく、親・大人が子どもへ関わる頻度や関わり方、躾などの「家庭教育」も含んでいます。
研究内容を簡単にご紹介すると以下の通り。
「アメリカの恵まれない家庭(まずしくて幼稚園などに通うことの出来ない家族)の子どもたちに、就学前教育を施したり、家庭訪問を定期的に実施した結果、どのような子に育つか」
という教育実験(40歳まで追跡)をもとに、就学前(乳幼児期)にどのような援助が必要なのかを研究したもの。
研究結果を要約すると、
『乳幼児期の子どもたちに教育を施すことが、その子の将来の経済力にも繋がる。
(具体的には、就学前教育を受けた子は、受けなかった子よりも学力検査の成績がよく、学歴が高く、特別支援教育の対象者が少なく、収入が多く、持ち家率が高く、生活保護受給率や逮捕者率が低かった。)
乳幼児期にこそしっかり教育を施すべき。』
となりました。
日本でも乳幼児期の教育が将来の経済力に影響するという研究結果が出ています。
それが、神戸大学の西村教授らが行った「躾」に関する研究です。
「この研究では4つの基本的なモラル
(=ウソをついてはいけない、他人に親切にする、ルールを守る、勉強をする)
をしつけの一環として親から教わった人は、それら全てを教わらなかった人と比較すると、
平均年収が86万円高い、という結果が出ています。
出典:「0歳〜6歳の幼児教育は「投資対効果」が1番良いって本当?その理由を徹底解説!」」
これらの研究からも乳幼児期、つまり6歳までの教育がいかに重要かが分かります。
「教育とは、学校で習ったすべてのことを忘れてしまった後に、それでもなお、自分のなかに残るものをいう。そして、その力を社会が直面する諸問題の解決に役立たせるべく、自ら考え行動できる人間をつくること、それが教育の目的といえよう。」
これはかの有名な理論物理学者、アルベルト・アインシュタインの言葉です。
この言葉の“それでもなお、自分のなかに残るもの“とは、勉強ができる、成績が良い、などという学力(認知能力)ではなく、人としての魅力、すなわち人間力の部分(非認知能力)です。
”すべてのことを忘れてしまった後でも自分のなかに残るもの”がしっかりとあることが、今後の未知数な時代でも活躍できることに繋がるのです。
学力は6歳を過ぎてもいくらでも、本人のやる気があれば身に付けていくことができます。
しかしそのための、やる気や意欲、思いやりなどの心(非認知能力)は6歳までにしっかりと育てていくことが必要不可欠。
なぜなら、6歳までに脳は発達のほとんどを終えてしまうのですから。
※もちろん、6歳を過ぎてまったく成長しないというわけではない。脳は12歳までに残りの10%を完成させるといわれている。(スキャモンの発達・発育曲線)
一説によると、人間は他の動物に比べて未熟な状態で生まれくるため、生後に進化を終えるまでの余地が数年残されているのではないかという仮説があり、動物的な存在から人間的な存在に成長する過程の環境が脳の質を決め、その数年の余地が6歳前後までの期間だという。
そしてそのためには、親・大人が
「何が子どもの脳と心を発達させ、何が発達を阻害してしまうのか」
を知っていなくてはいけません。
冒頭の世界子供白書にあるとおり、
「親や家族やその他の成人との関係や対話が子どもの脳の発達に影響し、十分な栄養や健康や綺麗な水などの要因と同じくらい影響力を持つ」
からです。
どんな言葉、どんな態度、どんな環境が子どもにとって最適なのか。
逆に、子どもに悪影響を及ぼしてしまう親・大人の言葉、態度、環境とは何か。
これらをきちんと把握しておくこと=親・大人が学ぶことが、“子どものため“になるのです。
子どもは「詰め込み」によって成長していくのではなく、親・大人が「引き出して上げる」ことで成長していきます。
脳が90%完成する6歳までに、いかに親・大人が子どもに、
・多様な経験をさせられるか(自分とは違う考え方・価値観に出会わせるか)
・子どもに適した環境を与えられるか
・人間力を築かせてあげられるか
がこれからの子どもの将来の活躍にとっても重要なのです。
以上のことから、せかいくでは「乳幼児期をどのように過ごすかは、子どもの一生を左右する一番重要な期間」と考えており、“6歳(未就学前)までの教育“を重視しているのです。